しまっておいた雨

雨が止むまで。私はただ、おおう、おおうと叫んだ。
両の手をついたアスファルトはちょうど人肌のような生ぬるさで、
頬擦りしようか迷って、やめた。

・・・

いろいろな春をいっしょうけんめいに生きて。
生きて、生きて、それでもあふれた気持ちを書きました。

同じ本に束ねることを想定してはいなかった、4つの物語。
大きさも、平熱もちがうふたりが手をとりあうように、気がつけば横にならんでいました。

物語を本にしたのは1年ぶりになります。

壮大な話はひとつもありません。
もしかしたらあなたの隣で起きているような。
そんなちいさくて、でもちゃんとそこにあるお話を書きたいと思って、
そしてこれからも書いていきたいと思っています。

読んでいただけたらうれしいです。
どうぞよろしくお願いします。(著者より)

・・・

「さくら、うつつ」
夕方のスーパーで、男はビニールシートと缶ビールを買った。
遠すぎる桜を眺めて、何をするわけでもなく飲む酒はうまい。

「巡礼」
ひとりぽっち、カレーの匂いがなかなか拭えない夕暮れ。
好きだった人のドレス姿は思ったよりも綺麗じゃなかった。

「新町三叉路」
健気に信じ続けた「楽しい」を失って、からっぽの澄春(すばる)。
いつもとちがう帰り道、バスにゆられて、話したことのないクラスメイトと話した。

「しまっておいた雨」
その年の梅雨は、あまり雨が降らなかった。
誰に心を寄せていいかわからないまま、菜乃(なの)はとあるたい焼き屋さんに通いつめる。

著:まつさかゆう
出版社:はなやぎ出版(本屋ブーケ出版部)
ページ数:146
判型:文庫判
発行年月日:2026年6月21日 第一刷

¥1,320

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